
「堂々堂」営業に関連して、わけて記しておくべきことがある。
日芸祭で「堂々堂」が開店すれば、あの爺さんが出勤(?)していることだろう。こんな機会でもなければ会うこともないジジイだから、足を運んでおこうか。面(つら)を視るのも久しぶりだ。という次第で、会場へ顔を見せてくださるかたもある。
なかにはお心づくしのお土産をご持参くださるかたまである。どなたにもかつてわが教室の学生だった時代があって、現在は働き盛りに差しかかっている社会人がただ。お顔を見せてくださるだけでも十分に懐かしく、ありがたいのに、恐縮至極である。次の機会にはどうか手ぶらでと、丁重にお願い申しつつも、せっかくのお心遣いだからありがたく頂戴している。
青森へ行ってきました。たしかアップルパイがお好きでショ、との口上付きで、リンゴのお菓子を頂戴した。津軽鉄道に乗って金木にある太宰治の生家「斜陽館」を一見してきた女性の小説書きからだ。リンゴを甘く炊いて、パイ皮の代りにカステラで包んだ洋菓子風で、たいそう美味かった。ご明察のとおりアップルパイは大好きさ。でもなんで知ってるのか? ムムッ、さては一朴洞日記を密かにチェックしておるな。
これなら大丈夫でしょう、との口上つきで、求肥(ぎゅうひ)入りの最中を頂戴した。蔵造りの町並で観光名所ともなっている川越をご実家とする男性シナリオライターからだ。川越は川舟水運の面でも街道の面でも、江戸から出るなり江戸へ入るなり、つまり交易にも旅にも首都防衛にも要衝の地だった。したがって老中などの要職にある者が歴代藩主となった。『鬼平犯科帳』には、たしか川越舟の老船頭に焦点を合せた噺があった。
金沢をはじめとして「小京都」と称ばれる街がいくつかあるが、川越はまさしく「小江戸」である。西武新宿線の特急電車「小江戸号」という名は伊達じゃないのだ。川越祭りひとつを観ても瞭かだが、今でもどことなく底力のある街である。近年は街起しの材料ともなった薩摩芋の生産も新名物となった。
加えて川越は銘菓の街でもある。老舗菓子店が覇を競うばかりか、駄菓子類を名物とする「菓子屋横丁」まである。昭和初期には七十軒もの菓子屋が並んでいたと、観光案内にはある。その地に育ったシナリオライターが、餡子(あんこ)にうるさい一朴だとてこれなら文句あるまいと吟味してくださった、大振り求肥入りの豪快最中である。はい確かに、餡も焼皮も求肥も、文句なく美味い。
ブラックマスカットという皮ごと食べられる葡萄と、私の拳骨ほどもある大ぶりの柿とをいただいた。数年前に卒業していった若手 OB からだ。お祖父さまが八百屋を営まれ、お父上は野菜流通のお仕事に就かれていると聴いた。まさしく青果一族である。
葡萄も柿も、安くはないのだろう。むろん大好物だが、私は長らく自分で買ったことがない。四季を通じて、相場の安い食材を用いてありきたりの自炊生活に徹している。みずから季節のフルーツを買ったのは、両親の看病・介護の時期までである。
リンゴの菓子と最中とは、さっさといただいてしまった。「堂々堂」が閉店した今は、かろうじてフルーツだけが撮影できる。
浅草今半の牛肉佃煮をいただいた。他大学でわが教室に在籍した、旧い OB からだ。せっかく「堂々堂」を訪ねてくださったのに、折あしく私が他学科の展示を観て回ったりして店を留守にしていた時間帯に当ってしまい、お眼にかかれず仕舞いに了った。シフトで入っていた学生店員に、お土産と置手紙のみを残して帰られたという。面目次第もなく、お気の毒なことをしてしまった。
浅草今半は贔屓の店で、クーポン券も所持している。と申しても、もっぱらお遣い物をあつらえているだけで、自分用に購入する機会はない。むろん大好物だからお遣い物にしてきたわけだが、私の食卓には贅沢品だ。クーポン券が一杯になると、つまり購入金額の累計が所定金額にまで達すると、新たなクーポン券に添えて試供品ひと品がもらえる。わが食卓に浅草今半が載るのは、そのときだけである。
それが今回は、試供品でない本商品をいただいてしまった。わが食卓を特例的豪華にしていただくわけだ。それにしても彼は、なんで浅草今半が私の好物と知ってるのだろうか? ムムッ、さては一朴洞日記を密かにチェックしておるな。

贅沢惣菜も贅沢水菓子も揃った。あとは主食だけだ。
「堂々堂」開店前日に「出陣式」と称して炊いた舞茸飯を、当日翌日は温かい飯として食ったが、さすがにその後は白飯同様に小分け冷凍おにぎりにして、炊事のさいに解凍した。それも尽きた。で、つねのごとく一週間ていどぶんを炊き、今日も冷凍用の小分けおにぎりを結んでラップした。
改めて思う。ずいぶん頂戴物をするもんだ。ありがたいが、恐縮だ。齢をとると、いただくようになるのだろうか。
先方が学生時分には、講義後には話題もしくは質問のある者を伴って喫茶店へと移動するのがつねだった。そりゃ珈琲代くらいは負担したさ。それが今、銘菓に代ったりフルーツに代ったり老舗の惣菜に代ったりして、回収されつつあるということなのか。それにしては、海老で鯛を釣るに似て、コスパが好過ぎる。投資信託としては利回りが好過ぎる。
色は秋 茶代(なさけ)は他人(ひと)のためならず 一朴