一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ひとつの満開


 今の姿をお眼にされては、とうていお信じいただけますまいが、昔は下枝もふんだんに繁っておりましてね、もっさりした感じに咲き匂ったもんでしたよ。自分で申すのもなんですが、爛漫たる咲き姿をお眼にかけたもんでした。今の手前の力では、せいぜいこの程度。ご免こうむりまして今朝からは、散り始めました、はい。

 あいにくの雨模様のなか、郷里の従兄ご夫妻がとつぜんのご来訪。父母墓前にお詣りくださった。お土産まで頂戴した。
 一昨日ご上京され、奥さまのお里とご墓所へ、そして青山学院時代の恩師のご墓所へ。ご夫妻は五十ン年前の青学キャンパス・カップルである。かねてより旧縁をことのほか大切になさってきたご夫妻だが、疫病禍に妨げられ三年ぶりのご上京とのこと。さぞかし募る想いを果すべく、旅程を歩かれたことであろう。
 あらましを滞りなく了えられ、最後に気楽な拙宅へお寄りくださった。あとは新幹線を待たせてあるということらしい。

 会えば互いの健康状態お伺い。夫君の防災や町興し活動の進展具合。夫人の地元大学ご定年後のご活躍模様。この冬の豪雪に、雪掻き往生のこと。交通事故であわや大惨事だった噺。車は大破、廃車処分になさったそうだが、ご夫妻ともご無事でなにより。
 親戚のホテル経営者は、疫病と豪雪で苦心惨憺のご様子。ご高齢の親戚には健康不安が。交際途絶えがちの親戚からは、祝儀不祝儀の情報が届きにくくなっている件。地元の水球チームがますます強豪チームに成長している件。

 親戚付合いについては、とうに次世代中心の時代となっているのに、私には次世代がないので、陸の孤島ならぬ一族の置いてけぼりとなり果てた。耳新しい情報ばかりだ。
 お返しに提供できる情報もない。お持ち帰りいただくお土産もない。いっそさっぱりしているとも云える自分勝手の限りだが、なんだかなァの想いは、やはり残る。

 満開です。

 そして、雨です。