
なるほど、こういう具合に丸坊主にすればいいのか。俺は下手くそだなあ。
散髪に行く。ほぼ月一で丸刈りにしていただくのがつねだが、昨年末に伺ったきり、本年最初の理髪店だ。年明けてからというもの、あまりの寒さに尻込みして極端な出不精をきめこんでしまい、丸ひと月パスした恰好のうちに過ぎてしまった。いくらハゲチョロケとはいえ、山賊頭となった。「鬼平犯科帳」で申せば、お勤めぶりの下品な大盗賊が、残虐な急ぎ働きのために急遽駆り集めた人斬り浪人みたいだ。
フラワー公演の前を通る。竹ぼうきを逆さにして地面に突刺したような独特の樹形から、俗に箒立ちとも称ばれる、ケヤキの冬枯れ姿が私は好きだ。公園のケヤキにはさらに手が加えられて、徒長枝が徹底的に払われたうえに、樹形を整えるべく主なる枝も詰められてある。箒立ちの迫力はいくぶん削がれるものの、いかにも行届いた万全かつ堂々の姿に見える。
なるほど、こういう具合に坊主頭にしたらいいのか。脈絡不明のままに、妙に感心させられた。
マスターもご母堂も、かねてより健康不安を抱えておられる身だから、散髪のあいだの話題としては、昨今の病院風景だの薬だの、MRI の音だのの話題に終始する。私だってその方面の話題には事欠かない。
了えてから、お茶と栗饅頭とをご馳走になりながら、なおもひとしきり噺し続けた。
用足しに歩いた巣鴨信用も銀行 ATM も、なかなかの行列だった。今日が晦日だったことを忘れていた。一人前の社会人でなくなったればこその迂闊である。
サミットストアに寄ると、すぐ南の踏切近くに消防車が停まっている。踏切遮断機は降りたままで、駅のホームには乗客姿のない電車が停車している。北側を振返ると、パトカーの車上に蛇腹状の脚で高くされた赤色ランプが点灯され、十字路を曲ったところには救急車も待機しているようだ。
野次馬根性から踏切ぎわまで進んでみた。軌道内で立噺していた二人の中年警察官のうちの一人が歩み寄ってきた。
「人身事故がありましてねえ。再開の目処はまだ……あちらの踏切か駅の跨線通路をお使いください」
野次馬はアッチへ行けと叱られるかと覚悟していたのだったが、通行者と視てくださったらしい。むろん踏切を渡りたかったわけではない。隣町へ行ってしまう。
「大変ですねえ、ご苦労さまです」
善良な町民のような顔を繕って、踵を返した。
サミットストアでは、らっきょう酢漬ひと袋と六十ワット電球二個入りひと箱とを買った。セブンイレブンで煙草をふた箱買った。ビッグエーでは、おろし生姜のチューブとカット若布ひと袋とを買った。
どんな人が事故に遭われたのだろうか。運転士さんも、お気の毒だ。電車は軌道の上しか走れねえんだもんなあ。避けようがねえだろうになあ。

道筋に空き家が一軒ある。引越されたのか、ご病気療養かなにかで一時お留守なのか、ともすると亡くなられたまま跡を継ぐかたがいらっしゃらないのだろうか。
敷地内に雑草が繁茂している。蔓草が壁面を這ってもいる。それらを振り払うかのように、主なき柑橘が陽を浴びて光る。主なき紅梅が満開である。