
本場もんですぜ。
学生サークル古本屋研究会による古書店散策の催しに、若手 OG が参加してくれた。写真学科を卒業し、写真技術史研究で大学院修士課程を修了して、その方面の研究・実践機関へと進んでいる新社会人だ。かつては古研の名副会長にして有能な女性金庫番だった。
ご出身が山梨県とのことで、生うどんをお土産にくださった。申すまでもなく山梨といえば、「ほうとう」で有名なうどん王国である。彼女は時どき当日記を覗いてくださっているらしく、私がスーパーで最安値の徳用品ばかりを買って食している様子を眼にされ、たまには本場もんを食わせてやろうとのお心遣いのようだ。道の駅のレジ袋にくるまれた、地元のかたにも大人気の逸品とのことだ。
さっそくいただいてみたい。初めての商品だから、まず包装袋裏面の成分表・内容量・お奨め調理法を読んだ。考え込んでしまった。生うどん三把が真空パックになってあるが、一把が百五十グラムとある。通常の一把よりもいささか大盛である。かといって二人前というには、やや物足りない。どうしたものか。
お奨め調理法には、温かい煮込み汁うどんに仕立てる参考例が示されてあって、合せる具材として、鶏肉・かぼちゃ・椎茸・ネギが挙げられている。少し考えてみれば当然だ。なにせ「ほうとう」王国である。これらを煮込んで、味噌味に仕立てるなり出汁醤油に仕立てるなりはお好み次第というわけだ。醤油味の場合にはと、濃縮つゆ三袋までが付いてある。湯で割ればすぐに使えるというわけだ。そしてこれらの具材をふんだんに盛り込めば、麺はこのていどの量でも十分に二食ぶんとなる。

商品趣旨は理解した。しかし最初の一食は、具材なしのザルうどんとして食べてみたい。あえて発売元の意向に反抗して、簡素な食いかたをしてみる。一把百五十グラムをそっくり茹でた。
作り置き惣菜にはカボチャもあるから、胃袋軍曹に取っちゃ「ほうとう」に似たもんじゃないか、というのがこじつけの言い訳だ。
商品にセットされた濃縮つゆを割って使ってみた。なにかにつけ甘口に味付けする私にとっては、醤油が少々勝っている。私ならもう少し出汁を強くして、料理酒や少量の砂糖をも使って、甘辛のつゆに仕立てる。が、それは私の横車というもので、具材を煮込んで肉や野菜や茸の味や甘みを引出したうえでの味つけには、このセットつゆがさぞや最適なのだろうと納得がゆく。
塩分一辺倒もいかがかと思い、スープはやめにして、牛乳をたっぷり飲んだ。
さて試食は済んだ。二把めは、まったく異なるいただきかたをするつもりだ。