
陽射しが好いので、歳末の支度に出かけようとした。
郵便受に電気料金の請求書が届いていた。待てよ。先月分は払い込んだかしらん。戻ってカレンダーを視ると、ゼムクリップで封筒が留めてある。太マーカーで「11/14〆切」と、私の字で書いてある。イケネッ。東京ガスの封筒には「11/24〆切」とある。ふたつともを鞄に押しこんで、もう一度出る。まずはセブンイレブンで払い込みだ。
数日うちには、督促はがきが届くかもしれない。「もし行き違いましたら、お読み捨てください」と末尾に印刷されたやつだ。ごめんなさい。でも期限より半月も前に払い込んだ月だって、あったじゃないですか。大目に視てくださいませんか。
池袋では、まず古書往来座さんへ。編集制作者である野村店長さんから、直じきに来年の『名画座手帳』を購入する。
おまけとして『名画座カンペ』今月号をもいただく。レトロ映画をこよなく愛する名画座マニアがたからは、「今月号ゲット!」と SNS で雄叫びが挙るほどの、知る人ぞ知る名フリーペイパーである。長年にわたって、お一人の手造り努力によって育ててこられたペイパーだ。名画愛好家は「のむみちさん」と称んで彼女を崇拝している。
なん年経っても、類似紙競合紙が現れない。アシスタントを募集しても集まらない。足を棒にしたあげくに根を詰めての完全手造り。しかも収益なし。将来への道筋も保証もなし。志願者が現れるわけがない。しかし、いいですか視てらっしゃい。将来このペイパーは、とんでもない文化史資料となる。きっとなる。
毎年『名画座手帳』の新品には、腰帯と称ぶにはあまりに幅広いカバーが巻かれてある。そこに記された推薦文も年を追うごとに充実してきた。今年の(というか来年版の)推薦者は梶芽衣子さんと山口馬木也さんだ。ななっ、なんと、『鬼平犯科帳』の密偵お政さんと『剣客商売』の若先生だ。映像版池波正太郎ワールドを支えた柱たちである。直筆筆跡がそのままオフセット印刷されてある。手帳は使わせていただくとして、このカバーは断じて処分するわけにはゆかない。
小型変形判の額縁を探さねばならなくなった。近ぢか神保町へ出向く用事があるので、文房堂さんに相談してみるけれども。のむみちさんも、面倒なもんをこしらえてくださったもんだ。

池袋駅から古書往来座さんへは、往きも還りも名代の鯛焼き屋の前を通る。西洋人さんのカップルに、店長がなにやら説明していた。
――タイ、イズ、ジャパニーズフィシュ。ラッキー、ハッピネスフィッシュ。オメデタイ、ミーニング、コングラチレイション。ソー、オメデタイ、タイ、タイヤキ――
西洋人さんがたは「オゥ」と納得したような笑顔を見せた。その背後には、日本人の若い男女が行列していた。
「駄洒落かぁ、アリだねそれ。うまいこと云うって感じ」
オイちょっと待て! 虚を衝かれたように、私は思わず立ち停まってしまった。笑うことなどできはしない。ただただ驚いてしまっていた。
尾頭付き、なんぞと云おうもんなら、保護者として親分が同伴してくるとでも、思われてしまうんだろうか。
気持を鎮めようと、タカセ珈琲サロンへと逃げ込む。落ちつけ。基本に還れ。ブランデーケーキだ。基本中の基本といえば、アンパンかチョココロネかクリームパンだ。久しぶりに、そうだじつに久しぶりにクリームパンとしよう。
小腹が空いていたのを満たして、気を落ちつかせたら、早々に身支度する。今日はここでゆっくり本を読んでなどいられないのだ。
ほとんどのフロアが長期改装中となっている西武百貨店の上層階で、ロフトだけは通常営業している。
ふだんダイソーで調達する品よりはいくらか整った法事袋を買う。父の十七回忌がいよいよ近づいた。無地のものと、うっすらと雲母(きら)が入ったものとのあいだで迷ったので、両方買ってみた。
年賀状用に、馬図案のゴム印を買う。小学生か? と嗤われそうな、無邪気で簡明な賀状をと、毎年心がけてきた。
受取りはがき用のホルダーを買う。年賀状の季節ばかりでなく、来年一年間の受取りはがきが、これ一冊でほぼまとまる。会社員を辞めてからだから、二十年以上もの慣わしだ。給料のための立場を離れてしまえば、個人の交際範囲なんぞというもんは、そのていどのものだ。
客で混雑しているというほどでもなく、レジカウンターに行列もなかったが、面白半分に自動支払機に挑戦してみた。年寄りと視ると、店員さんがすぐに説明に近づいて来る。ウルサイってんだよ。ゆっくり迷ってみたいのに。
家を出るときの腹づもりでは、最後に郵便局へ立寄ろうかとも思っていた。年賀はがきの購入だ。しばし迷ったあげくに、今日のところは保留することにした。年々使用枚数が減る。今年も昨年よりは減ることだろう。はて、どのていど減るだろうか。もう少し、考えてからにする。