
この季節もっとも元気の好い緑が、膝丈ほどに茂っている。
わずかに午前中のひと時だけ、陽射しがうららかだ。風さえなければ、快適さすら感じる。さいわいにして難敵に遭遇することもなく、年末ぎりぎりまで草むしりに時間を取られることも、今年はなさそうだ。助かる。春・初夏・秋口と、建屋三方の草むしりを三周したのが、功を奏しているのだろうか。西側だけは、一回しかできなかったけれども。そこは暮しのなかで歩いて通過する機会のない処だから、用事のまったくない日が来るまで視逃しておくこととする。
今もっとも元気が好いのは彼岸花の冬姿だ。花姿の清楚さに騙されてはいけない。冬越し姿の、わがままとすら云えるたくましさが、彼らの素顔であり、正体である。
今朝撮影したのは、わが命名するところの第二・第三地帯と、第五・第六北限地帯だ。いずれもわが膝丈にまで葉を伸ばしている。

歳末の用足しに、池袋まで出る。ふたつ三つと用件が溜らぬうちは鉄道に乗らないというのが日常方針だが、この季節ばかりはそうも云っていられない。
西武百貨店が大改装に入って、地下の名店街が七階へ移った。しかもかねて常用だったエスカレーターも廃止されて、気の進まぬエレベーター待ちをせねばならない。ようやく上ってみたら、目星をつけていた老舗の売場が探しあてられない。フロア入口まで戻り出店一覧表の前に立って眼を皿にしてみると、その老舗は撤退したらしく、売場は廃止されていた。当てが外れて、一瞬途方に暮れた。
冷静に復せばこの老舗、東武百貨店にも出店していたはずと、思い出した。私鉄と地下鉄と JR との乗換え地下道を歩く。キャスター付きの巨きなトランクを一人二個づつ転がして移動する三人組が、あたりをきょろきょろしながら斜めに通ってゆく。外国人の観光客さんだろうが。気をつけてみると、あっちにもこっちにも、二人組や三人組の姿がある。いかにも愉しそうだ。
歳末で賑わう日本を、この眼でじかに観たぜ、イェイ!
日本の平民たちが、なにを焦ってんだか、眼の色を変えて急いでいたぜ、イェイ!
便利だぜ、お人好しばかりだぜ、日本人なんてたいしたことないぜ、イェイ!
地下道は歩きにくかった。百貨店はごった返していた。「行列最後尾」という立札を手にした店員の姿が、あっちにもこっちにもあった。老舗の出店はあった。すこし勝手が違ったが、目星の商品は入手できた。
疲れた。いつもならタカセ珈琲サロンへ退避して、ひと息入れようかと考えるところだが、そんな気になれない。タカセもごった返していることだろう。途中の喫煙所もだ。だいいち地元町にだって買物の用件はある。それに今日あたり、どんな電話、どんな宅配便があるかもしれない。一刻も早く、帰宅すべきだ。
こんな日にこんな処へ、のこのこ出てくる俺がどうかしている。眺めまわせば、同世代以上とお観受けできる人の姿なんかないじゃないか。ブラウン運動する人混みのなかを立ち停まり立ち停まりしながら、西武線改札口へと急いだ。
川口青果店にて、玉ねぎと人参を買う。お仕事始めはとお訊ねすると、六日からだという。だったら、じゃが芋もかぼちゃも補充しておくかという気も一瞬起きたが、やめにしておく。形ばかりの正月として、黒豆と栗きんとんと伊達巻とを手配してあるから、食糧過多になってもいけない。
ダイソーでサインペンを一本。年賀状用だ。ビッグエーでは竹輪とロクピーチーズと料理酒ワンボトル。支払いを済ませて品物を買物袋に詰めていると、眼の前に貼紙が出ていた。「年末年始も平常通り営業いたします」とのことだ。なんのことはない、年越しと新年用の「買い溜め」という考え自体が、時代遅れなんじゃないか。
帰宅すると、早くも午後の陽のかげりとなっていて、肌寒い。葉っぱたちの表情も今朝とは違っていた。