東京の気温は今日も、三十六度にまで上昇するという。東北地方には台風が上陸しているというのに。
陽が高くなってからでは、活動意欲が鈍る。午前九時を期して、行動開始だ。東京流をご辞退して、郷里の習慣を頑固に貫いてきた拙宅にとっては、今日が盆の入りである。
花長さんはまだ開店しておられない。北村生花店さんまで戻って、墓前用の花を入手した。
霊園には、まだお詣り人の姿はない。境内や園内を管理清掃作業なさるかただけだ。かねてよりの顔馴染みである。ひとしきり世間噺する。給水口から長いホースを延ばして、拙宅墓所にまで届かせてくださった。ノズルの調節により、噴霧器になったり強力水鉄砲になったりする機能をご説明くださり、貸してくださった。アッという間に、墓掃除が済んでしまった。
四季を通じて花色を絶やすことのない金剛院さまの境内にあって、炎暑を謳歌するかのように満開なのは百日紅だ。強烈な色合いと勢いとに、気圧される想いがする。
見事に育った巨大葉たちの陰に、蓮の大輪が一輪だけ身を隠していた。用意周到にして、炎暑対策万全といった風情に感心させられる。
ご本堂、大師堂、大師銅像と、つねの順路で詣るあいだに、散歩途中といった軽装の老婦人が山門をくぐって境内散策を始めた。私より高齢とお見受けした。当山縁起の立札を読み、用心深く探るかのような足取りで進んでは、本堂や大師堂を眺めている。
「ご説明いたしましょうか」と、声をかけようかという気も一瞬起きかけたが、もちろん思い留まった。せっかくの散策気分を台無しにしてしまっては、お気の毒だ。
それに暑い。まだ午前十時台だというのに、刻一刻と気温上昇してきている。避難しなければならない。
山門を出て、不動堂に詣る。微力ながら、まだ闘うつもりでおります。どうかお見守りください。とはいえ討って出るのはさすがにむずかしく、見すぼらしい防御戦や後退戦ばかりが続いておりますが、ご海容ください。旅にも出たいと、願ってはおりながら、なかなか実行できずにおります。我ながら、歯がゆうございます。
帰りがけに眺めると、花長さんは開店しておられた。
弘法やまた待たされし盆のいり 一朴