一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

お大臣



 野菜お大臣。気分がよろしい。

 大北君からご恵贈いたゞいたご丹精野菜類のうち、まだ出動していなかったジャガイモを、いよいよ出動させる。頂戴した半数を使うことにする。シーズン開始は、まず手慣れた仕立てかたで。変り映えのない味となろうが、これならなにも考えずに、鼻唄混じりでも可能な作業だ。

 相乗りはニンジン、油揚げ、竹輪とした。今回はジャガイモ・ニンジンの量がたっぷりなので、鍋サイズの都合で、雁もどきを避け、油揚げを選択。例のごとく「ふっくら系」は禁物。用途が異なる。煮物には頼りない。見てくれが地味であれ不愛想であれ、「手焼き風」とか「昔ながらの」が謳い文句の商品にかぎる。出汁との相性も好い。
 ニンジンの皮はすぐに剥けるから、切って下茹で。その間にジャガイモも芽の窪みを包丁のカドで抉る。ピーラー作業は半皮残しに。
 水加減は、適当目分量で水と料理酒およそ 2:1 。 230cc. : 100cc. という感じか。顆粒状の即席出汁の助けを借りる。小穴のあいた中蓋の機嫌にもよるが、ふた振りといったところ。ショウガを刻んで投入。これは思いのほか好い仕事をする。

 湯を含んで膨れあがったときに浮き上がってこないように、油揚げと竹輪を鍋の中央付近に。周囲をジャガイモとニンジンで取囲む。が、互いの量の割合により、その都度いゝ加減。
 砂糖を投入。小匙五杯くらいは入れるか。数分煮立たせてから、醤油を投入。砂糖と同時投入すると、具が塩気を先に吸ってしまうものか、心もち醤油の勝った味になってしまう。煮物は甘め辛めが原則、とは教わったけれど、私の常用食には漬物やら味噌味のものやら、缶詰ほかの加工品やらも多い。齢も考えれば、醤油は砂糖との兼合いから申せばやゝ控えめ。玉杓子に八分目か九分目。パンチ力をわずかに欠いた味に仕上るが、それは妥協。そして落し蓋。その上に鍋蓋。

 野菜類の澱粉質が糖質に換るには、湯のなかで十五分かゝると聴いた。料理番組の先生がたは「こゝで二十分か二十五分煮れば完成」なんぞとおっしゃるが、それで煮あがったためしがない。火力も鍋の大きさも違うのだろう。煮汁の煮詰り加減を看れば、どうしたって三十分は煮る。番組では、簡単に煮えますよと、強調したいのだろうか。

 数日前に炊いたカボチャは、本日いたゞき了えた。ついでだから、残りの 1/2 個を炊いてしまうことにする。拙宅レンジは片方が故障して長い。火口は一個。縦列渋滞となるが、そこは調整。先に出汁を煮立てておいて、冷ましている間にジャガイモ・ニンジンを煮ていたのだった。
 今回は、数え切れぬほど炊いてきて、もはや眼をつぶっても(は無理か)炊ける簡便天龍寺流。失敗する気遣いはない。ま、可もなく不可もなく、炊きあがった。
 「大北農園」直送の野菜類は、今本番中だ。ふんだんに野菜を使えるのは、ちょいとしたお大臣さまにでもなった気分だ。