一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

気合ダァ!

年頭愕然。そして反省。そして決断。 拙宅内の片づけに重大な障害となっているもののひとつは、わが生涯にもはや再読の機会は訪れまいと思える書籍類だ。場所を塞ぎ、移動を妨げ、よろづ片づけの邪魔となってある。 中味を空にした箪笥だの、故障したままの…

ハーケン一本

ベーカリーの総菜パンにて、朝食とする。メンチカツパン、大切な仕事に出て行く日のゲン担ぎだ。 最年長の出席者が、今さら気分を新たにしたり、身なりを整えたりしたところで、会に華を添えることにもなるまい。むしろ滑稽だ。隅っこの置物として、くすんだ…

一輪

オヤッ、君ひとりだけ、どうしてそんなところに? 「本年もお世話になります。よろしくお願いいたします」 年末に伺ったきりで、今年最初の散髪だから、年明けのご挨拶となる。マスターとの浮世噺は、どうしたって能登震災から始まる。こんなことがあったら…

鳩の昼食会

鳩の会議。じつは昼食会だ。 西武池袋線は飯能までさしたる方向転換もなしに、ひたすら西へと下る。上り電車と下り電車とは左側通行のようにすれ違うから、いずれの駅においても、下りホームは南側に、上りホームは北側にある。 鳩たちは夜間どこに巣くって…

次なる街

現場のガラス引戸が開いていた。ガラスといっても、油紙のようなシートと粘着テープとでマスキングしてあって、ふだんは中が見えない。もとは自動ドアだった。 たまたま開いていたので、覗いて視る気になった。奥で三人の作業員が休憩している。一人が煙草に…

とある上機嫌

シナモントーストと珈琲。珈琲館に立寄ったさいの、気に入りメニューだ。 原稿を編集部に届けた。たいそうな原稿じゃない。二枚半。雑誌仕上りで一ページの記事だ。先ごろ意欲的な候補作をいく篇か読ませていただき、いずれが受賞作かといった選考のお手伝い…

どんどカレー

定番保存食のひとつ、カレー(のようなもの)を仕立てた。 一日一粒。まことにもってしみったれた消費を続けてきた栗きんとんの、最後の一粒を頬張った。偶然だが、伊達巻の最後のひと切れがタッパウェアに残っていたので、ついでに頬張った。ホッケの最後の…

常備医療用品

目下の肉体的疾患もしくは損傷としては、火傷だ。左膝下から脛にかけて三か所、点として数えれば五か所。右脛に一か所、点としては二か所。計四か所七点である。 夏も冬もエアコンを使ってない。父の介護に明け暮れしているころ、病人は冷暖房の風を極端に嫌…

空の寒

寒さを押して、買い物に出る。 疫病騒ぎがあって、ウォーキングの習慣を怠けるようになってから、運動不足による気力・体力の減退は眼に見えて顕著だ。せめて買物くらいはという気がある。草履・サンダルを避け、靴に履き替えるようにしている。ただし風が冷…

ブルペンにて

ルーキーと、だれもが眼を疑った奇跡的カムバックの老選手とは、初対面だ。老選手 初登板お疲れさん。さぞや緊張したろう。入団してどれくらい?ルーキー ありがとうございます。ガチガチでした。まだ四日目です。老 そりゃ運が好いや。古株どんぶり連中が、…

解るよなあ

松が取れたら、いっせいにダンボール。因果関係はあるまいけれど。 およそ一日おきのペースで、コンビニへ煙草を買いに行く。昨年のある時期までは、拙宅筋向うといってもよい十字路角にファミリーマートがあって、すこぶる便利だった。繁盛店だったのに、な…

故障者リスト

蓋付きのどんぶりが、一脚だけある。昭和の生残りだ。 わが家にはふた系統のどんぶりがあった。ひとつは藍色地に、水流だろうか柳の枝だろうか、灰色の縦筋模様が全面に入ったもので、古風な浴衣地のごとくおとなしく、地味なものだった。もうひとつは昔の日…

松さげる

門扉左右の松をはずす。玄関玉飾りをおろす。空気や水の入口だの鬼門の窓だのを守護していた裏白の輪飾りをすべて集める。 昨日七草のうちに下げるべきだったろう。そう思わぬではなかったが、立込んでいた。心急いていたのだ。閑用として翌日回しにしてしま…

険しい時代の人たち

若き日の一時期、なんとかして理解しようとムキになってはみたものの、容易には歯が立たなかった本というものがある。今想えば、肩の力を脱いて、平易に読めばさほどの本でもなかったものを、未熟ゆえにそうはできなかったという苦い思い出である。それもこ…

にわか報告

お大師堂前には、大きな藁囲い。 先を争っての初詣には興味がない。「怠け者の節句働き」という例えもあるが、ふだん寄りつきもしない癖にこんな時ばかり熱心な振りをしてみたところで、どうなるものでもあるまい。弘法さまにも仏たちにも、事態は丸見えにち…

いのち

ラッキョウ入れの小鉢が割れた。昔流の験(げん)担ぎで申せば、数が増えた。 左手の小盆には淹れたての珈琲が載っていた。なみなみと注いであった。右手で冷蔵庫の扉を開け、小鉢を戻そうとした。なにもかもを老化による意識散漫のせいにするのは卑怯だろう…

初声

ついに息する人に声を掛けた。本年初声だ。 寝そびれたので、いっそのこととばかりに外出した。夜半の小雨は上っているが、曇り空で、アスファルトはあちこち濡れている。神社へ向う。もう初詣の人出もあるまい。そう思うのは私の常識足らずで、朝から参拝客…

初荷

当ブログの「古書肆に出す」シリーズをお眼になさってくださったかたから、だいぶ片づいてきたでしょうと、お声掛けいただくことがある。おかげさまでと、いちおう応えてはいる。が、あくまでも挨拶であって、実情はどこが進展したのかという状況だ。 空間を…

同居人

寝正月出がらしもはや二年越し どなたとも、ひと言も口をきかぬ元日だった。今年に入って、まだ声を出してない。 正午すこし前に起きて、本年最初の数値測定を済ませると、まず郵便受けから年賀状を取ってきた。当方からお出ししてないかたの賀状がなん枚あ…

迎春

大つごもり秘儀

ここ一朴之宮大祭祀殿(巷での愛称は物置)では、例年大晦日の行事である「式年鍋替えの儀」が、つましくしめやかのうちにも古式ゆかしき恒例に則り、催されました。 儀式次第を知る者は、伝承者たる一朴翁わずか一名のみという、世にかくれた秘儀中の秘儀で…

山崎街道

司修さんによる版画である。いく十周年目かの「風花」開店記念日祝賀パーティーにて、引出物として頂戴した。 モデルはお店の守護猫だ。ある日の開店前、ママさんが扉を開け放ったまま掃除していたら、通りかかった猫がそっと店内を覗き込んだ。オヤッ、どこ…

手抜き迎春

どうしてくれようか。あれもこれも、間に合わない……。 昨日、冷蔵庫が満杯となった。わが買出し食品と、かさみやさんからご送付いただいた予約食品とが揃った。年越し近しの気分が湧いた。気分だけだ。食糧以外の年越し準備は、なにひとつ片づいちゃいない。…

正月届く

かさみやさんにお願いしておいた正月食品が、今日届いた。 元日といったところで、たかが大晦日の翌日に過ぎない。両親が他界してからというもの、とくに御節料理を用意したことなどはない。 昔はご近所への年始廻りという風習があった。少し離れた親戚同士…

徹夜明け

まがりなりにも社会人だった時分に較べれば、わずかな枚数しか年賀状を準備しない。郵便局にて購入する枚数を、昨年よりまた十枚減らしてみた。思わぬかたから頂戴して、返信が必要な事態にでもなったら、そのときに必要枚別だけ追加購入して間に合せようと…

歳末感謝大買出し

用件が三つ以上溜らぬうちは、外出したくない。指を折れば、五つも六つもになった。やむをえない。 まずはわがメインバンクたる信用金庫にて通帳記入。ギャラ振込んどきましたのでヨロシクとの連絡をいただいたまま、ものぐさを決込んでいた案件があった。こ…

こんなもんです

「子どもは寝る時間ですよ」母さんに云われて、いったんはベッドに入った兄妹だったが、遠くから切れぎれに聞えてくる笑い声や音楽に起され、窓辺に寄る。声や音楽は、かなり離れた隣家から聞えてきていたのだった。 「子どもたちが唄いながら木の周りを回っ…

ガラス瓶

週に一度の資源ゴミ回収を思い出せば一目瞭然だが、ガラス瓶というものに接する機会がほんとうに少なくなった。 缶珈琲をよく飲む。スーパーでディスカウント品をまとめ仕入れして、冷蔵庫に切らさぬようにしてある。外出中やお湯屋さんからの帰り道やコイン…

色の冬至

昨日に引続いて、ケヤキ樹の噺。 わが町にも、通りすがりにふと足を停めることのあるケヤキがいく本かある。いずれも江古田浅間神社の大ケヤキには、貫禄の点で一歩譲らざるをえぬが、それぞれの風情を見せている。まず駅南口からほどなくの公園には、中央に…

登山口

江古田には富士山がある。 江古田駅に降りるのは、大学祭以来だから、五十日ぶりくらいになる。日昼の陽射しは季節外れの穏やかさで、まず北口の浅間神社に詣でた。拝殿の背後は樹木がこんもりと繁る小高い山で、富士山となっている。国指定の重要有形民俗文…