一朴洞日記

多岐祐介の老残妄言

ことば

意思表示

統一地方選挙の結果が判明したようである。感想なんぞ、ましてや所見など述べる分際ではない。ただ、私は投票行動を誤ったかもしれない。 わが町ではいつの選挙でも投票所となる区立小学校へと、正午少し過ぎに出向く。朝早くに赴きたかったが、これでも起床…

柄合せ

両口屋是清「ささらがた」 端午の節句を目途とした、季節限定の菓子だ。 漢字では「細形(ささらがた)」だろうか。布地の細かい織柄のことである。江戸小紋などがこれにあたろうか。それを菓子の商品名に援用するのは、職人の行届いた工夫と手わざ、といっ…

撮り妓

「はんなり」さんユーチューブ動画チャンネルよりいただきました。 撮り妓(とりこ):まだ辞書に登録されてないと思います。私の造語です。むろん「撮り鉄」からの借用です。遺憾ながら月並な着想ですから、どこかでどなたかが、すでに使っておられる語だと…

よくある、だって?

「それって、アルアルだよね」 いつごろからか聴かれるようになった、俗語的口語表現である。具体的説明を圧縮してニュアンスだけ通じさせてしまう便利な語法で、私も使ったことがある。が、今もって好きな日本語とは申しがたい。 ご多分に漏れず、一部の職…

雨はどこから

歳月を経ても、この人の唄の力が衰えないのは、詩の力のゆえだと思っている。 炊事だの洗い物だの、台所作業の BGM としては、古めのモダンジャズを繰返し流しっぱなしにしてある。ゴキゲンで解りやすい音、コールマン・ホウキンズ、ドナルド・バード、ウェ…

スッチー

なんだ、そんなことも知らねえのか。時流に添うことを諦めた年寄りってのは、始末に負えねえもんだなあ。……解ってらいっ!「ホームページからお入りください。右上に紫色の「どうぞ」のバナーがありますから、クリックしていただきますと、フォーマットが開…

老いては

『対抗言論 3』(法政大学出版局、2023) 「反ヘイトのための交差路」と副題された意欲的な論集を送っていただいた。446ページの大冊だ。 四本の特集に分類され、論説や研究報告や対談企画が並ぶ。「1、文学/批評に何ができるか」「2、暴力・宗教・革命を…

ほどよい

ほどよいご馳走。 実弾! 独居自炊者には、けっして無駄にならぬ贈り物。 従妹ご夫妻は東京郊外で、親の代からの歯科医院を開業している。私から視れば、母の弟ご夫妻の、お嬢さんと夫君だ。叔父は自作農の次男坊だったし、私の父も自作農の三男坊だったから…

冬来たる

来春三月までの長期予報によると、例年にも増して寒い冬になるという。 郷里の従兄から、私にとっては珍しい食品をいたゞいた。こゝ数年、年末には同じ品物をいたゞいてきた。初めての年には、世にはこういうものがあるのか、美味いもんだなあと唸った。上越…

プルトップ

缶切りを使ったことのない若者たちの時代なのだという。 今日の気分は味噌汁ではないな、という日がある。かといって麦茶を飲みながら食事というのも、少々味気ないな、という気分の日もある。 若き友人のひとり水奥さんから岩手県の水産加工食品をいたゞい…

後始末

往来の落葉掃きをしていると、塵取りのなかにいろいろなものが掃き寄せられてくる。 「地球環境」なる語の用いられかたに、一抹の疑問を感じている。 海底に樹脂類が堆積して、それが魚介類や海中植物に悪影響を与え、ひいては人間の食糧に影響して健康被害…

チ~ン!

お世話になった。ずいぶん使わせてもらった。 卓上ベルというそうだ。こういうものが世の中にあると初めて知ったのは、「ぴったし カン・カン」というテレビクイズ番組だった。ぴったしチームとカンカンチームの対抗戦で、コント55号の欽ちゃんと二郎さんが…

コスパ

本日がメロン君のご命日となる。 元村君からご恵贈に与った夕張メロンが、年に一度のわがゼイタクたる事情を記したのは、八月十六日だった。四分の一カットにして、四日間にていたゞいた。皮をさらに半分にして、フリーザーバッグに収め、冷蔵庫の隅にとって…

判定不能

深夜零時。蒸し暑い。かような夜は散歩をかねて、買物に限る。 日昼猛暑でも、夜中は涼しいという日が、この夏なん日かあった。室内には余熱が充満していても、玄関を一歩出れば楽になったので、助かった。程よい風を愉しめた夜もあった。 台風は困る。吹き…

ゆかしい

ハガキ投函しに、駅前のポストへ。午前中のうちに、わずかでも歩きたい。 神社へ立寄る。鳥居下の主たるキトラの姿は見えない。 拝殿では、宮司さんがひとり、神事をおこなっておられた。そうか、今日は海の日だった。 いかなることにも、先刻承知なさって密…

うちのひと

渡辺達生撮影、墨田ユキ写真集『MADE IN JAPAN』(ワニブックス、1993)より無断で切取らせていたゞきました。 男から視て都合の好い女、と片づけてよろしいものかしらん。いえね、『濹東綺譚』のお雪のことなんですが……。 墨田ユキさんは、新藤兼人監督の映…

白足袋

長谷川如是閑『日本さまざま』(大宝輪閣、1962) 早急をサッキュウと読んでも、ソウキュウと読んでも、いずれも正解だそうだ。かつてはサッキュウが正解で、ソウキュウは誤用とまではゆかずとも、慣用読みといった扱いだったと記憶するが。 「NHKラジオ深夜…

唇のしわざ

小笠原奈央(1987‐ )日本プロ麻雀連盟所属竹書房『近代麻雀』web「雀士名鑑」より無断で切取らせていただきました。 愛称は「不屈のベビーフェイス」。ツイッター上でも、画像検索でも、コスプレやカラコンや、変顔やイタズラ描き顔の写真が、無数に出てき…

まとも

古来の手造りとは、似ても似つかない。けれど手作り感の温もりを演出してある。なるほど、これが現代の「まとも」というものか。 従兄が日本海の海産物加工品を贈ってくれる。ありがたい。大好物だ。 私より年長の従兄で、旧家の跡を取った。今は住宅地とい…

気立て

ご近所の奥さまから、りんごをいたゞいた。福島県のお知合いから箱で届いたので、お裾分けとおっしゃって。果物屋に上等品として並んでいる、大ぶりで持ち重りのするりんご、なんと三個もだ。 「線量チェックは済んでいるそうです」とつけ加えられた。福島県…

卒業

私は押しかけ弟子だった。師にとっては、招かれざる客だった。私を、弟子などとは思っておられなかった。 東 野炎 立所見而 反見為者 月西渡(巻一、48)柿本人麻呂 ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれは月かたぶきぬ (賀茂真淵『萬葉考』によ…

師の申さく

窪田章一郎(1908‐2001)『窪田章一郎全歌集』(短歌新聞社)口絵より切取らせていたゞきました。 棋士たちは、師匠から日常頻繁に盤を挟んで手ほどきを受けつゝ、成長してゆくわけではないという。入門時に顔合せをかねて、棋力・棋風を診ていただくために…

気の毒

プラトン(前427ころ-前347) 美しい青年は得であるか? 師から、より多くのことを、授けていたゞけるものなのか。だとしたら俺は……。 プラトンに『パイドロス』という、お奨めの問答篇がある。さほど長くもなく、読みやすい。有名な『パイドン』とは別物で…

憶えて

『道場破り』(松竹、1964)より、上田吉ニ郎。 喜劇役者として実力は認められながらも、脇役に徹してきた長門勇の、初主演作品。腰の低いおとぼけキャラに見えて、じつは神道無双流極意皆伝の腕前。妻の妙(たえ)と次なる仕官の道を求めて、浪々の旅をして…

名案

両口屋是清、不動の三菓仙。左より「旅まくら」「よも山」「志なの路」。 久方ぶりにパスモを使う。池袋へ。彼岸詣りの準備だ。二十五年来、ナントカのひとつ憶え、両口屋是清である。 かつて盆暮れも春秋彼岸も、菓子をお供えしていた時期があった。仏様に…

素足

とある文学賞の選考作業を分担中で、応募作品を毎日読んで過している。不正・情実を避けるべく、作者の個人情報など一切伏せられたものを、読んでいる。中年の書き手と思しき作品も混じるが、ほとんどが若い作者らしく、学生作品も多そうだ。 今春、定年退職…

気づく

「細かいのが四十と、ひいふうみい……八円、お改めください。あとはこれで崩してください」 ファミマやビッグエーでのレジだ。小銭入れがジャラジャラしてきた時には、買物まえに百円未満がいくらあるか確かめてから入店する。両替という手続きなしに、自然循…

老耄

常であればまだ寝ている時間帯に、台所をしていたら、聴き覚えのある声がラジオから流れてきた。安住紳一郎さんの声だ。へ~え。古田新太さんをゲストに、腹を抱えるトークだったが、それはいいとして。 舞台公演中の古田さんが、んじゃ、とばかりに退席して…

あふせ

立川談志さんが、こんなふうにおしゃったことがある。 ――埼玉県熊谷(くまがや)って云うでしょう。あれ、クマガイじゃないのかね。 たしかに上品上生(じょうぼんじょうしょう)の往生を祈願したのはクマガイ直実だし、その史実から名付けられたラン科の山…

ご都合

SNSやユーチューブほか、私設媒体が増えることは、総体的に看れば、好いことと思っている。個人情報が抜かれ、機密が流出したなどという弊害も耳にするし、国際規模のハッカーの横行も取沙汰されるが、それらは機能の可能性に人間の知恵が追付けぬところに生…